概要

 

文部科学省研究費助成研究
「循環器疾患等の予防のための腹囲を含む健康診断の有用性に関する研究」

 

概要

「循環器疾患等の予防のための腹囲を含む健康診断の有用性に関する研究(科学研究費20590622号)」は、現在、専属の産業医が健康管理を行っている事業場で把握されている就業者の死亡事例について、個人情報の保護を徹底したうえで多数の事業場からのデータを集めるとともに、事業場における健康診断結果を取得して、主に次の目的をについて明らかにするために平成20~24年に実施したものです

1.健康診断の必須項目であるBMI(Body Mass Index)、腹囲、血圧、コレステロール、血糖の測定値及び喫煙習慣が、診療の機会でなく職場の健康診断で測定した場合であっても、循環器疾患(心筋梗塞、脳血管障害等)による死亡の予測に有用かどうか。

2.産業医が健康管理を行う職場の体制を有する事業場では、がん、循環器疾患、自殺、事故による在職者の死亡を抑制できるかどうか。

調査期間

2008年~2012年(2007年~2011年の在職者の死亡を調査)

 

調査方法

毎年、約80カ所の事業場に選任されている専属の産業医に本調査への協力を依頼したところ、25~37事業場の産業医からご協力をいただきました。それらの事業場において、事業場名及び個人名を匿名化する方式で、事業者が健康管理を行う労働者の人数及び調査期間内に死亡したすべての労働者(在職死亡者)について報告を受けました。その際、在職死亡者についての直近の健康診断結果(BMI、腹囲、血圧、総コレステロール、中性脂肪、LDLコレステロール、血糖値、HbA1c、喫煙習慣)の結果も報告を受けました。

 

個人情報の報告様式

事業場及び在職死亡者の個人情報の匿名化しました。この読み替え表を管理する個人識別情報管理者は研究者以外から1名を選任して、個人情報の安全管理を確保した。研究者は研究に協力する産業医と直接の連絡は行わず事業場ごとのIDコードを指定して個人識別情報管理者を介して行うなど、研究者はいずれの事業場のデータを取り扱っているのかわからないような研究情報の流れを構築して研究を推進しました。

 

データ解析

人口動態統計が報告している一般国民及び一般就業者の5歳年代別の死因別死亡率を対照データとして使用しました。本調査で把握した専属の産業医が健康管理を行っている労働者の集団について、一般国民と一般就業者の集団に対するSMR(標準化死亡比)を算出しました。また、本調査で報告された在職死亡者の健康診断結果及び喫煙習慣との関連を検討しました。

 

結果

延べ148事業場において健康管理を行っている専属の産業医からご協力をいただきました。男性614人、女性60人の在職死亡者についての報告をいただきました。調査年ごとの事業場数と在職死亡者数を表1に示します。

 

表1 調査年ごとの事業場数と在職死亡者数

 

在職死亡者の死因は、疾患群にまとめると、多い順に、がん(49%)、循環器疾患(心筋梗塞や脳血管障害等、22%)、自殺(12%)、事故(交通事故や労災事故等、6%)、消化器疾患(肝硬変等、4%)、呼吸器疾患(2%)、その他(6%)でした。女性では、がんが3/4を占めました。がんを原発部位別にみると、多い順に、男性では、肺、大腸、血液、胃、肝臓、すい臓、口腔・食道の順で、女性では、乳房、すい臓、子宮、肺、胃、卵巣の順でした。死因別の割合や順位は、毎年、ほぼ同様でした。
在職死亡者の死因を死亡直近の健康診断結果と比較すると、循環器疾患による在職死亡者は、腹囲やBMIの値が大きめで、血圧が高く、LDLコレステロール値が高めでした。呼吸器のがん及び呼吸器疾患による在職死亡者は、中途禁煙者の割合が多めでした。また、呼吸器疾患による在職死亡者は腹囲やBMIの値が小さめでした。消化器疾患による在職死亡者は糖尿病や耐糖能の異常のある者が多めで、LDLコレステロール値もHDLコレステロール値も低めでした。
在職死亡者のSMR(標準化死亡比)を疾患群ごとに算出した結果を表2に示します。本調査の事業場では、同じ年代の一般国民や一般就業者と比べてすべての疾患群で死亡率が低めでした。特に、事故や自殺は、一般就業者と比べても半数以下でした。

 

表2 在職死亡者の疾患群ごとの死因のSMR

考察・結論

これらの結果は、健康診断で把握された健康上のリスクが実際に在職死亡に関係していることを示していると考えられます。また、一部の結果は、在職死亡に至る直前の体格や栄養状態等の変化を示していたと考えられます。このように職場で実施されている健康診断の結果に基づいて、在職死亡につながるような健康リスクを低減することは可能と考えられました。
ところで、本調査にご協力いただいた事業場は、いずれも大企業であって、労働者が慢性疾患に罹患していることが分かったり休職したりしても、安易に解雇されない就業規則を有していることから、見かけ上の死亡率を低下させるような選択バイアスは生じにくかったと考えられます。したがって、これらの結果は、専属の産業医が健康管理を行う事業場においては、職場環境、就業条件、健康管理体制といった健康をとりまく要因が労働者の健康管理に効果的に寄与するなどして、在職死亡者の発生が抑制されていることを示していると考えられました。